『内部からくさる桃』

 

 

『内部からくさる桃』       茨木のり子

 

 

       単調なくらしに耐えること

       雨だれのように単調な.....

 

       恋人どうしのキスを

       こころして成熟させること

       一生賭けても食べ飽きない

       おいしい南の果実のように

 

       禿鷹の闘争心を

       見えないものに挑むこと

       つねにつねにしりもちをつきながら

 

       ひとびとは

       怒りの火薬を湿らせてはならない

       まことに自己の名において立つ日のために

 

       ひとびとは盗まなければならない

       恒星と恒星の間に光る友情の秘伝を

 

       ひとびとは思索しなければならない

       山師のように執拗に

       <埋没されてあるもの>を

       ひとりにだけふさわしく用意された

       <生の意味>を

 

       それらはたぶん

       おそろしいものを含んでいるだろう

       酩酊の銃を取るよりはるかに!

 

       耐えきれず人は攫む

       贋金をつかむように

       むなしく流通するものを攫む

 

       内部からいつもくさる桃 平和

 

       日々に失格し

       日々に脱落する悪たれによって

       世界は

       破壊の夢にさらされてやまない